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 私は本番に弱い!

 今回はUDとは直接関係はないのですが、私が持っている脳性マヒについてちょっとお話したいと思います。
 脳性マヒ(アテトーゼ型)という障害はちょっとややこしい障害で、一言でいえば”本番に弱い”といったとこでしょうか・・・。

 たしかに身体的な障害なのですが、その動作というのは実はそのときの精神状態によって変わってきてしまうのです。いくつか例を挙げますと、ちょっと想像がつかないかと思いますが物を持って”離す”という動作ができないのです。ほーら、信じられないでしょう! 詳しく説明しますと、例えばテーブルの上にコップがあったとします。それが空っぽなら平気で持ったり離したりできるのですが、これが水が入っていて、なおかつそれを”こぼさないようにしよう”と思ってしまった途端に状況は一変します。今までスムーズにできていた持ったり離したりが途端にできなくなってしまうのです。持つ動作が難しいというのは、まぁなんとなく理解していただけると思いますが、”離す”という動作すらも難しくなってしまいます。これを私の心のつぶやきで解説したいと思います。

 ”のど渇いたなぁ、ジュースでも飲むかな。”(ジュースをコップに注ぎます。)
 ”おっと、、こぼさないで持って行かなくちゃな。”(と思った時点でちょっと緊張。。)
 ”さぁ、どうやって持とうか。。ヘタに触ると手が震えてこぼすし・・・”
 ”やべぇ、手が震えてきた!落ち着け。。落ち着けぇ。。”(この時点でますます力が入り、震えてくる)
 ”よし、こぼしても良いから落ち着け!こぼしたら拭けばいいじゃん。”(と思うとちょっと力が抜けてくる)
 ”よし、いまだ!”(ひょいっと持つ。この場合、ゆっくり静かに持つのはまず無理です。)
 ”あー、持てたぁ。良かったー 次はあそこに置くんだな。”
 ”今度もさっきの調子で・・・こぼしても良いぞ良いぞ”(ここで注意。先ほどはこう思うことで成功しましたが、今度は先ほどの成功がプレッシャーになって力が入ってしまいます。)
 ”あれ、、力抜けないじゃん。うー、落ち着けー。”
 ”えーい、一か八かだ”(半ば目をつぶりながら手を離します。)
 ”やった!成功!”
 
 と、これは調子(運?)が良い時の様子です。そうでない時はもうご想像がつくでしょう、ジュースを床に飲ませるか、テーブルに飲ませるか、それとも私の脚のほうに飲ませるかです。ただ、これはあくまでわかりやすい例えで、実際には上のような状況に陥るのは長年の経験上、予測がつくので最初から飲む場所にジュースのボトルを持っていって注ぐのですが。
 しかしながら、”本番に弱い”という状況はありとあらゆる場面で起こります。同じように”離す”ということでいえば、人に物を渡すときです。相手に何かを渡そうと思って物を差し出します。相手もそれを持ちます。・・・離せない。 相手が知ってる人であればまだ”ちょっと、離してよ!”と冗談で返してくれるのですが、これが初対面の人だとシャレになりません!例えば駅などで駅員さんに切符を買ってもらうときに、財布を渡そうとして手が離れなくなって”財布これじゃないんですか?”なんて突っ込まれることは良くあることで、そのたびに心の中で”違うんだよー、手が離れないんだよー”とつぶやくのですが、それを説明しようにも言語障害があるし、かえって訳わからなくなりますもんね。なんともツライところです。なので、私も考えました!しっかり五本の指で持ってしまうと離しづらいので、じゃぁ親指と人差し指だけでつまむ・というかはさむような持ち方にすればどうか。と・・・ 完ぺき!とまではいきませんが、それでも以前と比べると”一発で渡し率”はかなり良いです。2本の指ではさんでいるだけなので、ちょっと引っ張っただけで離れてしまうんでしょうね。それに親指と人差し指はわりとコントロールできるので、この作戦はなかなかグットです。

 また、[不随意運動]といって自分が意図していないのに体が勝手に動いてしまうことがあります。これもねぇ、けっこう厄介なんですよ。もう、何度そばにいる人にパンチやキックをお見舞いしてしまったことか・・・。脳性マヒの特徴のひとつに、大きな音や刺激があるとビックリしてしまうというのがあります。([モロー反射]と言います。)そのリアクションがまたでかいこと!ビックリのリアクションだけならダチョウの竜ちゃんにも勝てるかもしれないですね。しかも、こっちは本当に天然だし。ビックリしたときや精神的に動揺したとき、怒ったときにこの不随意運動が出てしまいます。よくあるのは、人が大勢いる中で後ろから”ワッ!”とやられて手が隣の人に当たってしまったり、前の人をキックしてしまうなんてことでしょうか。それとか、この間も映画館に映画を見に行って一番クライマックスで大きな音が鳴ったときに前の座席を蹴って振り返られてしまって恐縮してしまったり。(ちなみに長さん見たさに某[踊る]警察ものを観にいったんだけど、なんかイマイチだった。。)
 あと、トランプや麻雀なんていうのもわかりやすいですね。ババ抜きなんかやった日には、”あんたババ持ってるでしょ!”、”ううん、持ってないよ。”・・・ 持ってないよといいながら体のどこかが動いてるんです。バレバレでしょ。麻雀でもダマテンでテンパった(あれ、意味がダブってる?)瞬間にもうソワソワしちゃって、で、それがバレて危なそうな牌は捨てられなくなってしまったり・・・。いわゆるポーカーフェースというのは難しいかもしれません。

 それでも、私だって対応策(対抗策?)を考えていないわけではありません。上述のようなことはすでに何度も経験しているので、いくら学習能力のない私でもそれなりに対処法はあります。
要は、いつも精神的に落ち着いていれば良いわけですよ。映画のクライマックスででっかい音が鳴ろうが、ババを持っていようが、気持ちに余裕があれば動揺なんてしませんでしょ。で、私がいつも心がけていることといえば、映画の場合はストーリーをある程度読んで、あ、そろそろでっかい音が来そうだなと思ったら、あらかじめ力を入れちゃうんです。思いっきり脇を締めて足も思いっきり伸ばすか縮めるかして準備をしておくと、まぁほぼ大丈夫です。その代わり観終わったときにはかなりヘトヘトになってしまうのですが。ババ抜きのときは、たとえババを引いちゃっても次の人に引かせようなんて思わないことですね!”あ、ババ引いちゃったなぁ、いつか次の人が引けばいいや”ってな感じです。だからねぇ、昔は”脳性マヒってなんか禅の修業みたいだよなぁ”って真剣に思ってた時期がありましたね。なにしろ欲を出したらいけないなんてね、今となってはともかく若い頃なんていうのは欲のかたまりなので、かなり混乱しましたよ。まぁ、今でもあんまり変わっちゃいないんですけどね。ただ、後ろから”ワッ!”ていうのは予測も何もできませんから、これをかわすのは絶対無理ですね!100%飛び上がります。

 ただ、これまで書いたようなことは人が居るか居ないかによっても違ってきてしまうのです。たとえば映画を観るにしても、映画館で大勢の人が居ればやはりそれだけで気が張ってしまいますし、一人で観るときは何も気を遣う必要がないうえに楽な姿勢で観られるので余計にリラックスできて、大きな音が出てもビックリしなくなります。それは映画に限ったことではなく、日常生活全般にいえることで、一人で居るときにはスラスラできることも人が居て特にジーっと見られていたりするとできなくなってしまうことはよくありますね。一番覚えているのは、以前新しいエアコンを買おうと思って電気屋にいったときです。もう買う機種も決まって、支払いのときにカードを使おうと思ってカードを出したんです。店員さんの”じゃぁここにサインしてください”の言葉に、うっ、書けない・・・。自分の名前なんて普段なら10秒20秒で書けるんですよ。しかもけっこう小さい文字で。ところがそのときは、もう手が震えてしまって、サインするどころかペンを持つのにもひと苦労!ようやく書き始めたと思ったら、字じゃなくて線の集まりみたいになってるし結局2分も3分もかかってしまって店員さんをちょっと引かせてしまったこともありました。一緒に行った親も、”そんなに緊張しなくても良いよ”と励ましてくれるんだけど、それが余計にプレッシャーになって手が固まっちゃうんですよね。。

 脳性マヒという障害はまったくもって厄介な障害で、自分でもうっとうしいところもあるんですけど・・・でもどこかで楽しんでる面も実はあるんです。だって、今の自分の気分で体の調子も変わってくるんですよ!だから、ちょっとしたことで気持ちが揺れてそれが体に現れたときも、あとで”俺もまだまだガキだな”なんて思ってみたりすることも時にはあります。また、思ってもみないようなところで急に力が入ってしまって、”あれ?なんで?”と思うときもあります。自分の体なのに全部自分でコントロールできないなんて、もどかしい反面ある意味おもしろいと思いません?確実なものが何ひとつないなんて、まるで今の世の中みたいではありませんか!(おお、でかく来たねぇ。)
 ただ、ひとつだけ確実に言えることは、もし生まれ変わったら今度は・・・やっぱ健常者が良いですね!
メイビー!(今はこれ入れとかないとね。)
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